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大阪高等裁判所 昭和29年(ラ)27号 決定 1954年3月25日

抗告人 奥村昭久 代理人 田万清臣

相手方 芳沢鉛工業株式会社 代表者代表取締役 芳沢{雨鶴}太郎 代理人 横山義弘

坂本勇 代理人 三島政豊

主文

本件抗告は之を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は別紙のとおりであつて、当裁判所は当事者双方を審訊した。

仍て按ずるに、係争物に関する仮処分の目的は係争物其のものの現状維持にあつて、単に其の物の交換価値のみの維持ではないこと勿論であるから、民事訴訟法第七百五十条第四項は原則としては仮処分に準用が無いものと解すべきである。併し仮処分の目的物が生魚其の他腐敗変質し易いものであるとか、又は将来に向つて急激に価額の下落する虞のあるような特別の事情があつて、債権者が将来に於て右係争物其のものの給付を受けるよりは債務者に対する賠償請求権の行使を選ぶ方が利益である場合には、其の請求権の保全の方法として右法条を準用し換価の申立を許容することが出来るものと解するを相当とする。斯く解しなければ債権者としては折角係争物に関する仮処分を得たに拘らず、あらためて所有権者としての仮の地位を定める仮処分を申請して始めて右物件を売却するが、或は債務者所有の他の財産に付仮差押を為すか、若くは本案に付勝訴の判決を得た後に於て価額の著しく下落した係争物其のものの給付を受けることを以て満足せねばならぬこととなり債権者の保護に欠くるところがあると謂はねばならぬからである。

進んで、本件に於て右の如き特別の事情の有無に付按ずるに、仮処分の目的たる材木が盗難又は紛失の虞れのあることは単に適当の場所に保管換えをすれば之を避けることが出来るし、又腐朽変質の虞れの点に付ては抗告人本人の審訊の結果によつても梅雨季の腐蝕或は其の後の虫害の虞れがあると謂うに過ぎないのであるから、現在直ちに之を換価しなければ著しい損害を生ずるものと認めることは出来ない。又近い将来に右物件の価額が急激に下落する傾向があるものと認めるべき事跡も存しない。従つて先に述べたような換価申立を許容せねばならぬ特別の事情は無いものと謂うのほかは無い。右認定を覆へし抗告人の主張事実を認める証拠無く、抗告理由は採用出来ない。仍て本件換価申立を失当として却下した原決定は正当で、他に之を取消すべき瑕疵が無く、即時抗告は其の理由が無いから之を棄却すべきものとし、抗告費用の負担に付民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長判事 朝山二郎 判事 沢井種雄 判事 前川透)

抗告の趣旨

原決定は取消す、更に相当の御裁判を求める。

理由

前記仮処分物件は仮処分命令に基き奈良地方裁判所執行吏の保管に付せられ居るが右物件は現在山林内及道路上に放置してありてこれを執行吏が完全に保管することは非常に困難であり若し目的物件が盗難に罹り紛失等せられんかその責任は執行吏にあるとは言へ其の損害は申立人又は被申立人の何人かが負担するより外に途なく斯くしては双方の不利益であり且又本案訴訟の確定を俟つてこれを処分する迄は相当の期間を要しその間に於て若干腐敗することも考え得られることであり斯る場合に於ては物件の価格も安価となることは当然である。右何れにしても仮処分物件をこのまま放置することは損害を及ぼす危険こそあれ利益となることは全然なきものと考えられる。仍つて現在の状態に於て換価しその代金を執行吏に保管せしめ置くことは最も適当なる処置と考えます。然るに奈良地方裁判所に於て理由ないものとして却下の決定をなしたることは不当と考える。

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